それは3年前のある日だった。
fj.os.linuxにこんな記事が投稿された。
>Subject:良く分かんない
>From:miho _at_ lala.fancy.co.jp
>
>英語ばっかりで良く分かんない
>Widows W より良いって聞いたからやってみたけど
>何が出来るのか教えて
>アイコンもあんましかわゆくないし
>お返事下さい
普通、こういう記事の場合、
>せめてLinuxのバージョンとかディストリビューションの種類とか
>明記してくれないと返答しようがありません
とか
>>何が出来るのか教えて
>何がしたいんですか?
とか、冷たく否「適切に」対応されるのだが、その記事は「◯ロ本コーナー」の如く
男どもの汗臭いfj.os.linuxにまるで場違いな良い香りを漂わせたライム・グリーンの
薄手の半袖のワンピースが通りすぎたような錯覚を読者に与えた。そして良く見ると
記事の終りにしっかり投稿者のマシンスペック等が書かれていたのだった
しかも
>kernel 5.1.85 with FDI0.2patch
>クリーム・コロン社K2000スペシャルスペシャル
とても「初心者」の環境と思えない記述があったのである
Linux村長老、飯能氏(78)は当時をこう振り返る
「思えば、あれが全てのはじまりだった。確か僕がLinuxサイトを教えたんじゃなかっ
たっけな。んん。でも設定もロクニ出来そうに無い感じの人がどうして最新"通好み"
カーネルを?とは思ったんだよ」
何人かがいやに親切なフォローをして、その「ワンピース」の人がグラフィックをやり
たい事が分かり、ftpサイトやwebサイトを教えてもらっていたが、その人は
>そのソフトだったらもう入ってるみたい
で、終ったのである。そしてLinux村長老のひとり毛呂山氏(81)もNewsを読むのを止めて、
他の作業に取り掛かろうとしたのだった。
「そうそう、仕事に戻ろうとしたんだ。そしたらNewsの未読が突然100になったんだ。僕
は100を最大としてたんだけど、本とは200くらい流れてたんだよな、確か」
それは夕立ちの前触れだった
低知能研究所の管理者、雨月氏(86)はそのときのことをこう話す
「いやあ、びっくりしたねえ、瞬時にspoolが溢れたんだ。記事は皆短くて、内容も初心
者の戸惑いって感じだったんだけど、なにしろ量がすざまじかった」
と、当時のログを見せてくれた。
(株)オロロンバイの伊丹氏(70)は、やむなく緊急処置をとったと言います
「だってねえ、君、もう帯域を使い切ってしまいかねなかったんだ。ああ。Newsを止めた
よ、だってそうだろ、仕事に差し支えてしまう程だったんだから」
fj.os.linuxは
>Widow W とどう違うの?
とか
>◯◯の設定の画面が出て来たんだけど、何を記入すれば良いの?
とか
>『言霊W』のファイルは読めますか?
とか
>なんかメール下さい
とか
>26歳、◯◯くんのファンの方、御友達になりませんか?
とか
>可愛い壁紙のありかを教えて下さい
とか
>これって何に使うんですか?
とかの、短い「?」記事の洪水となった。各地のNewsサーバーは悲鳴を上げ始めた。なにし
ろ、その「?」投稿者同志でフォローし合いまくり始めたのである。
>うん、良く分かんないよね、結構Widows Wなら会社で使い慣れてるんだけど
>急に動かなくなるって事は無いみたいだけど、見たこと無い画面ばっかりで
>そうそう
>あなた、お仕事は?
>ん、経理関係
>じゃあ、慣れてんじゃない?こういうの
>でも見たこと無いの
一行記事が雪ダルマ式に増えて行ったのである。あの「ワンピース」から三日後には2000の
オーダーを超えていた。あまりの急増ぶりに困惑していた関係者は、「?」系投稿者に共通
項を見出していた。
長老、越生氏(80)は、それは推理小説を読み進むようだったと言う
「普通、初心者は設定がタコなんだよ、でもそうじゃなかった。完璧にセットアップされて
いるのが分かるんだよね。それも安定系カーネルじゃないっていうので首を捻った。その時、
高崎さんからメールが来て、」
その高崎氏(79)
「うーん、投稿者が皆関西に偏っているのに気がついたんだ。もしかすると関西地域限定で
僕らが全然知らないディストリビューションがあるんじゃないかって、想像したんだ」
越生氏
「その頃にはもう、fj.os.linuxはfj.diet状態でね(笑い)。業者はアドレスをせっせと集め
てたんだろうけど(笑い)。彼ら、いや彼女たちの設定はアンチSpamの設定が完璧で効果無かっ
たみたい。あ、それでね、高崎さんの想像は当たってるかな、って、Newsで聞いてみたら、即
分かりましたよ」
しかし、事態は深刻になっていた。やたらと女性と思しき投稿者が集うfj.os.linuxに「様々な
思惑」を抱えたらしい投稿者が殺到していた。配送経路は限界だった。大手のISPがfj.os.linux
の配送に制限を加え始めていたが、トラフィックは増すばかりだった。fjの委員であった前橋
氏(88)は
「もう協議とか投票とか手続きを踏んでいる場合じゃなかったんだ。fj.os.linuxはfj.rec.linux
じゃないんだって、もう、何人かにメールを出して賛同を得てね、新しくNewsグループを立ち
上げて、そっちに行ってくれってアナウンスを流したんだけど、もう一時間に1000という記事
投稿状態だったから三分おきに流したよ」
一方越生氏は笑いながら答えてくれた
「で、彼女たちの『どこで入手したんですか?』っていう問いかけに対する答えが何だったと
思う?
『女性ダイナ』
だったんだよ、週刊誌の」
飯能氏
「誰が想像できた?芸能ニュースとダイエットと御惣菜の週刊誌にLinuxのオリジナル・ディ
ストリビューションがオマケでついてたなんて!」
高崎氏
「本屋で生まれて始めて女性週刊誌を買ったよ(笑い)。早速中身を見たんだけど、これが驚
くべき内容だった。」
前橋氏はそのNewsグループの命名をこう語る
「桐生さんがビートルズのファンでね(笑い)。もともと"タコ"って云う言い方もあったしね。」
その桐生氏(80)
「まあ、賑やかにやってよって事で(爆笑)。でもねえ、世界最大のNewsグループっていう名誉
と引き替えに、僕らLinux村には深刻な問題が残ったんだ。誰がそのディストリビューションを
作ったかってね」
かくして
fj.os.linux.octopus-garden
は出発したのであった。
四日後、あまりの高負荷に、神の配分なのか、商用OSを採用していたNewsサーバーが次々にダ
ウンして行った。配送をあきらめざるを得ない所も続出した。まさにそのとき、テレビのワイ
ドショーがこの「事件」を取り上げた。Linux村の住民は始めておよそ自分たちとは無縁と信じ
ていた人間たちのインタビューを真剣に聞くことになったのであった。
『女性ダイナ』編集長、押井氏のぼそぼそとした声が続いた
「ここのところ、誰かが見た聞いた事を再体験したいという人間特有の欲望に答えて行くと云う
作業にもデジタル化の波が押し寄せて来た。まあ、そういう時期も過去に無かったわけではな
いんだけど、やはりコンテンツの貧弱さから飽きられてしまって、今はもう無くなって、消費
し尽くされたとも言えたんだけど、その荒れ地になにかを投入してみたいっていうコンセプト
が、まあ、僕のなかにはずっとあって、隙あらばって感じでは出していたんだけど、そこに帆
場っていう男から連絡があって、こういう面白いものがあるからって」
立ち食いうどん屋で待ち合わせ、押井氏は渡されたディスクを持っていたラップトップに入れて
みた。
「即、決断した。もうこれは未来像だと直観したので」
毛呂山氏は独特のインストールが終えるとこれまた独特の画面が現れたのに驚いた。全く未知の
Window Systemだった。
「独力なのか、とにかく全く新しいものを見たね。そいでね、例のfj.os.linux.octopus-garden
の騒ぎの原因だった『Helpボタン』を右端に見付けたんだ。」
越生氏
「そう、そのボタンがfj.os.linux直結だったんだ。このディストリビューションを入れた人は
Newsの何たるかも全く知らずにして、分からないことはここに聞けば良いと云う風に思って
このボタンを押したんだ。するとNewsリーダーが立ち上がって、大昔のチャット感覚で投稿し
たんだね。」
六日後、fj.os.linux.octopus-gardenは有象無象の記事で溢れ返っていた。噂は噂を呼び、憶測
は憶測を産み、壮絶な有り様になっていた。
越生氏
「大昔に仕事やってたWebクラみたいな状態(笑い)」
七日後、ついにfj.os.linux.octopus-gardenは閉鎖された。
そして西暦は終った。
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skonishi _at_ dd.iij4u.or.jp
小西慎一
『ユンカース・カム・ヒア』上映計画
http://www2s.biglobe.ne.jp/~c-sphere
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